羅網事故事例分析1
冬のハス田で撮影した2枚の写真
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撮影日時・場所
- 撮影日時: 2025年1月2日 PM14:00頃(晴天/無風)
- 撮影場所: 茨城県かすみがうら市志戸崎
- 霞ヶ浦湖岸道路から3枚ほど入った収穫済みのハス田。
- 水面から180cm程度の高さに、1辺10cmの菱目有結節網を天井網として敷設。網のメンテナンス状況は良好。
- サイドネットは4面とも巻き上げられて出入り自由な状態。
羅網事故の現場写真
マガモ(♀)
- 網の中央付近で翼の先端(初列風切り羽の付け根/第2指骨)部分を羅網。
- 体のほとんどは食べつくされ、首・頭部は欠損(右足も欠損?)
- 羅網箇所となった網目に隣接する網目の網糸が結節箇所で破断し、破断箇所に隣接する網目の網糸の上に左足が乗った状態となっている。
オオタカ(若)
- 網地長辺の端に近い部分で、網の上に乗る形で羅網。
- 右翼は網目を上から下に完全に抜けている。
- 頭・頸部も網目を抜けている(右翼にほぼ隠れた状態)。
- 左翼は半分畳まれた状態。網目に羽角が突き刺さり、前腕部分は網目にブロックされている。
事故状況の分析
マガモ(♀)の羅網
- 巻き上げられたサイドネットをくぐり抜けて圃場に侵入。
- 圃場の中心部を飛翔中に右翼を網目に差し入れ網糸を強く引いたことにより、網目が変形し交差した網糸に翼の先端を挟み込まれた「挟まり型」羅網。
- 事故発生後、同じ天井網で羅網していたオオタカ(若)などの採食者が、可食部分をほぼ食べ尽くしたと見られる。 欠損している部位は採食者が持ち帰ったか(主に頭・頸部)、もしくは採餌の際に圃場に落下した可能性がある。
- 脚部が網の上に乗っているのは、採食者がマガモ(♀)の体を網の上に引き上げて食事をしたためと考えられ、 その際に採食者が網目を結節部分から切断したと見られる網糸の破断が被害鳥胸部付近で確認できる。
オオタカ(若)の羅網
- 天井網の上すれすれの高さを、網の中心部から端の方向にほぼ水平に飛翔。
- 網の端に近づいて網地がやや湾曲した部分に頭から突っ込み、網目にはまり込んだ「はまり型」羅網。
- 右翼と頭・頸部が完全に網目を抜けていることから、被害鳥の飛翔体勢と網に接触した角度を推定できる。オオタカの手根中手骨の長さは約110mmなので、両翼を2/3ほどすぼめた形で、上から見て網目(菱目)の約15°右方向から網に接触したと考えられる。
- 頭部から網目に突っ込み、翼の付け根/叉骨付近まで網目にはまり込んだと思われる。その際、左翼が網糸を強く引っ張り鳥体の重さも加わるため、胸部の網糸に負荷が集中し気管等を損傷した可能性がある。
- 足指に網糸が巻き付いているが張りは強くなく、被害鳥が羅網した際に足指で網目結節箇所付近を掴んだと見られる。
解 説
天井網下で発生する翼の先端の「挟まり型」羅網事故
マガモ(♀)の羅網事故は、典型的な天井網の下で発生する翼の先端の「挟まり型」羅網と考えられます。
網の下を飛翔中に、翼を網目に差し入れて網糸を強く引っ張り、網目が大きく変形することにより生じた網糸の交差箇所に翼の先端(手根中手骨)が挟み込まれます。主な被害鳥は、天井網の網目(100mm/1辺の菱目)を抜けることができないマガモやカルガモなどの中・大型カモ類す。
霞ケ浦周辺のハス田の野鳥羅網事故の80%以上は天井網周辺の「挟まり型」羅網であり、その約25%が天井網下で発生した翼の先端部の羅網です。
猛禽類に特徴的な「はまり型」羅網事故
網目に足や頭を突っ込んで身動きできなくなるタイプの羅網事故が「はまり型」羅網です。
「はまり型」羅網の被害鳥は、羅網部位によってサギ類(脚部)とタカやフクロウ類などの猛禽(頭部)に分かれます。サギ類の場合は、網糸を踏み外して長い脚が網目にはまり、網から脱出できなくなったもの。一方、地面とほぼ水平に飛行して狩りを行う猛禽類の場合には、頭から網目に突っ込み身動きが取れない状態となります。
「挟まり型」羅網は霞ケ浦周辺のハス田の野鳥羅網事故の約5%程度ですが、被害鳥はレンコンを食害するとは考えられず、猛禽類は羅網鳥の採食目的でハス田に侵入したと見られ、2次被害ともいえる羅網事故です。